アレルギー疾患の根本的な体質改善(アトピー、喘息、花粉症)

最近の医学の進歩で、アレルギー関連疾患の根本的な体質改善の方向性が見えてきました。
食生活習慣を見直して、腸の健康状態を高めれば、アレルギー体質を軽減でき、あらゆる生活習慣病が予防でき、健康長寿をめざせます。
  1. 腸の健康が全ての基本
  2. 食物線維を増やせばアレルギーの暴走が鎮まる 科学的理由
  3. アレルギーのスイッチ? Th1/Th2バランスを食事と漢方で変える
  4. アトピー性皮膚炎
  5. 春のスギ花粉症と秋の花粉症、通年性アレルギー性鼻炎 (サプリメントの話を含む)
  6. 過去に書いた花粉症関連記事

腸の健康が全ての基本

 腸は、人体最大の免疫器官で、体中のあらゆる免疫・防衛機能と連動しています。アトピー性皮膚炎、じんま疹、肌荒れなどの皮膚のトラブル、喘息など、アレルギー疾患の全てが胃腸の不調と連動します。
 そればかりでなく、胃腸が不調になって免疫が暴走すると、体中が慢性炎症状態になり、高血圧、糖尿病、動脈硬化など、あらゆる生活習慣病、認知症、老化を促進し、自然治癒力を低下させて、癌のリスクも高めてしまいます。

 腸の中には大量の腸内細菌が生きています。腸は、物理的・科学的バリアを作って、細菌と触れないように距離を保ちながら、細菌が食物残渣を食べて作り出す酪酸や乳酸などの人に有益な有機酸を取り込んで、免疫を調整しています。この有機酸の取り込みが不足すると、免疫が暴走して、アレルギーなどの慢性炎症疾患が悪化します。さらに有機酸が不足すると、便が酸性からアルカリ性になって、硬い便になり、便秘し、腸が慢性的に炎症を起こして、最後には癌化します。

 ですから、有機酸を生む善玉腸内細菌が元気に生きていくためには、そのご飯である食物線維の多い食品が欠かせないのです。つまり、穀類、豆類、野菜、海藻などが毎日必要なのです。
 その必要量は、厚労省が推奨している食物線維量の1.5倍くらいあれば、アレルギーや慢性炎症を予防できます。京都市内の人々と、京都府丹後地方の百寿者の多い地方の人々を比較した研究によれば、 丹後地方の人々の方が 、雑穀などの食物線維の摂取量が圧倒的に多かったそうです。

 腸には、 腸壁から分泌される粘液によって、細菌が増えても腸粘膜に感染(侵入)しないようになっているバリア機能があります。
 この粘液層は、胆汁酸という脂肪分を溶かす石鹸のようなもので、洗い流されてしまうので、脂肪分の摂り過ぎによって、バリア機能が低下します。
 野菜を食べるときにも、煮野菜や温野菜をそのまま食べると良いのですが、ドレッシングやマヨネーズ、野菜炒めなど、大量の油脂と一緒にとると、腸のバリア機能が低下します。
 また、霜降り肉など、脂身の乗ったお肉ほど、腸に大きな負担となり、腸のバリア機能が低下して、腸がタダレてしまいます。
 お肉を食べるときは、温野菜を肉の3倍以上?とにかく多めに一緒に食べたほうがよいのです。

 高脂肪食の問題点は、動物性脂肪が植物性脂肪かを問わず、牛乳のように細かく乳化してから腸に吸収されるので、胆汁酸という脂肪の乳化剤(石鹸のようなもの)が大量に長時間、出続けてしまうことにあります。腸の粘液バリアの粘液層が乳化されて溶けて薄くなって壊れてしまうと、腸粘膜が、腸内細菌との適切な距離が保てなくなり、細菌と直接触れてしまい、強い免疫炎症を起こしてしまうので、体中に炎症性サイトカインが増えて、慢性炎症状態になるのです。

 腸内細菌の善玉菌は、主に炭水化物の中の難消化性食物線維を分解して、酪酸、乳酸、酢酸、プロピオン酸などの体に有用な短鎖有機酸を作り、腸内を弱酸性に保って、悪玉菌が増えないように、病原菌が育たないように腸と体を守ってくれます。野菜や雑穀は人が健康で生きていくための必需品なのです。
 子どもは野菜嫌いが多いですから、難消化性デンプンの多い小豆アズキを多用するのも良いと思います。詳しくはためしてガッテンも出ていますのでクリックして確認して下さい。

 腸内細菌の悪玉菌は、蛋白質やアミノ酸を分解して、硫黄化合物やインドール、スカトール、アミン、アンモニアなど有害な物質を産生します。蛋白質やアミノ酸は体を造る元となる必要栄養源ですが、過剰に摂取すると、腸内がアルカリ性になり、脂肪がカルシウム石鹸化して便がカチコチに硬くなり、悪玉菌が増えて腸内フローラのバランスが崩れて、益々、腸に炎症を起こしやすくなってしまいます。

食物線維を増やせばアレルギーの暴走が鎮まる 科学的理由

アレルギーは免疫細胞の暴走、過剰免疫反応です。本来はアレルギーを起こすはずのない主食の米や小麦などの穀物や、豆やお肉や果物などの食品、昔からどこにでもある塵(チリ)、埃(ホコリ)、人の垢(アカ)やフケを食べて生きているダニやハウスダストなどに、過剰免疫反応を起こしている状態です。(そこに慢性炎症体質を助長するような食・生活環境が強く影響していますが、その話は「瘀血:オケツ」の所で詳述します。)

その原因は、欧米でも日本でも、特に先進国で、大腸まで届く難消化性食物線維の摂取量が、中世の頃と比べて著しく減少したからです。

大腸に届いた食物線維の量に比例して、大腸に住み着いている酪酸産生菌が食物線維を食べて「酪酸」をつくります。この酪酸は免疫システムに対して「もっと落ち着いてね」というメッセージ物質として働き、腸管に集まっている免疫細胞を、制御性T細胞という免疫の暴走を止める細胞に変える物質であることがわかったのです。

大腸に届く難消化性食物線維が不足すると、酪酸が不足して、制御性T細胞が不足して、全身の免疫システムが暴走するということが、「NHKスペシャル「人体」 万病撃退!“腸”が免疫の鍵だった」で、2018年1月14日に放映されました。クリックしてご確認下さい。

つまり、乳酸菌や納豆菌、酪酸菌、発酵食品などの、有用菌がいくら体に良いからと「プロバイオティック食材」だけを多く食べても、有用菌は腸で育ちません。有用菌を育てる難消化性食物線維を多く含んだ「プレバイオティックス食材」の方を多く食べなければ、アレルギー免疫の暴走は止まらないのです。

日本は、戦後に欧米化するまでは、お野菜を人糞の肥料で育てていたので、回虫症などの寄生虫症が怖いので、お野菜を生で食べる習慣がありませんでした。ホウレン草や小松菜のおひたしのように、野菜は茹でて食べるものだったので、いつも豊富な食物線維を摂っていたため、アレルギーが少なかったのです。大腸という畑にまく腐葉土のようなイメージで、お野菜は生のサラダより、火を通したもので、いっぱい食べてくださいね。

アレルギーのスイッチ?
Th1/Th2バランスを食事と漢方で変える

  • アレルギー体質は
    今まで、治らないものと思われていました。
    しかし、最近の研究から、体の免疫バランスを変えるスイッチのあることが判りました。ナイーブT細胞が、様々な菌やウイルスの刺激で樹状細胞を介して、Th1細胞に変身して細胞免疫力を高めます。菌やウイルスの刺激が不足するとTh2細胞に変身してアレルギー反応が促進されるのです。
    先進諸国にアレルギーが多いこと、ヨーグルトで花粉症が改善する人がいること、漢方薬でアトピーが劇的に善くなる人がいることなど、この発見によって全て説明が出来るようになったのです。
  • アレルギー体質のスイッチを切るには
    Th1細胞を増やし、Th2細胞を減らせばよいのですが、現在の所、Th2細胞を若干減らすお薬だけがあり、Th1細胞を増やすお薬は見つかっていません。
    ヨーグルト、納豆、ぬかずけ等、発酵食品にTh1細胞を増やす働きがあり、漢方薬の梔子柏皮湯、補中益気湯、十全大補湯でも同様の働きがあることが確認されています。
  • 小児の感染とアレルギー
    赤ちゃんは、お母さんの胎盤を拒絶しないように全員Th2優位で生まれてきます。だからアレルギーを起こしやすいのです。
    出生直後から様々な菌やウイルスの感染にさらされることによってTh1が誘導され、1歳から3歳くらいまでに、生理的なアレルギー体質を卒業することができます。抗生剤を使いすぎて腸内細菌が減るとアレルギー体質が長引くのもこのためです。土に触れない生活も卒業を遅らせる要因になります。体力があれば、小児科の待合で風邪をもらうのも、アレルギー改善には悪くないことなのです。

アトピー性皮膚炎

  1. アトピー体質の人は
     東洋医学的に皮膚と胃腸のバリア機能が低下しています。漢方で皮膚の新陳代謝を高め胃腸虚弱を改善しながら、野菜や雑穀を煮たり蒸したりして、動植物の油脂類をできるだけ減らして、魚やエゴマ、キャノーラ油、オリーブ油などリノール酸の少ない油脂に切り替えて、胃腸を丈夫にする治療を徹底して続けていると、早い人で数週間、遅い人でも数ヶ月から半年で、アトピーが改善し皮膚炎が終息していきます。
     アトピーは食事や寝不足や気候など、生活環境に左右されることが少なくありませんが、漢方で体力が付いてくるに従って、皮膚炎が再燃する頻度が減っていきます。
  2. ステロイド剤は
     当院ではアレルギーマーチの悪循環を断ち切るために少量を薄めて用いることがあります。何より保湿とスキンケアが大切です。さらに漢方薬で胃腸や皮膚のバリア機能と再生力を高める治療を続けていると、ステロイドの減量、中止が可能です。
     今までにステロイド軟膏治療を長く続けていた場合は、急に止めるとリバウンドを起こして悪化するので、漢方や食事で腸や体を元気にしてから、ステロイドの減量を行っています。
  3. 遷延性の難治性アトピーは
     好酸球の増加する4型アレルギー(遅延型アレルギー)なので、4型に有効な抗アレルギー剤をしっかり併用しながら、漢方薬で冷え症や胃腸虚弱を治して全身の新陳代謝を高めてあげれば、薄紙をはがすように皮膚炎症状が次第に終息していきます。
  4. アトピー予備軍の乳児湿疹は
     皮膚や粘膜からアレルゲンが感作されることが多いので、特に乳幼児では、スキンケアでしっかりと保湿することが大切で、次に食事に注意して便秘しないようにすること、温野菜や雑穀の煮物で食物線維やオリゴ糖を毎日食べて、便が黒く固く臭くならないようにして、胃腸を丈夫にしていると、遅くとも4-5歳までにアトピー症状が出なくなります。

春のスギ花粉症と秋の花粉症、通年性アレルギー性鼻炎

院長が書いた医療関係者向けリーフレット 『花粉症の根治をめざした漢方薬の使い分け』もクリックして読んでみてくださいね。

  1. 天候とスギ花粉の飛散状況
     通常は節分の頃から、ちらほら飛び始めて2月中旬から本格的な飛散が始まり、4月中旬まで続きます。
    夏が猛暑だと、スギの雄花が増えて、11月下旬頃から晴れた風の強い日に、スポットでスギ花粉が飛ぶことがあります。
  2. 飛散直前の予防対策には
    3つあります。
    第1に乾燥による鼻粘膜障害を防ぐことです。マスクや加湿器で鼻粘膜の乾燥を防ぐと花粉症が重症化しにくくなります。
    第2に野菜や発酵食品、乳酸菌を増やして、高脂肪高蛋白食を今までの半分以下にして、便秘を解消して、腸のバリア機能を高め、免疫状態を安定化しておくことです。早い人なら2週間ぐらいで体調が変わり、アレルギー症状が軽くなります。
    第3に、顔の火照る体質のある人は、足腰を温め、血液をサラサラにする漢方薬を多用し、食事に注意して、血液ドロドロ状態をサラサラ状態にしておくことです。これで、かぶれやすい炎症傾向体質が改善できます。
  3. 抗アレルギー剤は
    4~5種類の異なる作用をもつお薬のグループがあります。早く使わないと効果のでないものと、症状が出た時にその場で使うものがありますが、1日おきに症状が出るような状況では、続けて服用した方が効果が良いようです。
    点鼻薬、点眼薬にも、作用の異なるものがあり、予防的に毎日使うものと、症状の出た時のみ使うものがあります。
  4. 花粉症のサプリメントには
    大きく分けると2種類あります。1番目は、乳酸菌とキノコ類(βグルカン)で、多糖体などの成分が腸の粘膜で自然免疫系に働きかけ、アレルギーになりやすい免疫バランス(2型ヘルパーT細胞が優位)状態を改善します。
    (免疫バランスの改善には時間がかかるため、早めの摂取が効果的です)
    胃腸を丈夫にして自然免疫力を高める漢方薬には更に強い免疫バランス改善作用があるので、当院ではアトピーなど通年性のアレルギーの治療に併用しています。
    2番目は、トマト,シソ,甜茶(てんちゃ)ミント,フキ,バラ,柿葉,柑橘(かんきつ)類,シジュウム,凍頂ウーロン茶などの植物素材で、ポリフェノール成分が、アレルギーの抑制に寄与すると考えられています。
    アレルギー発症の原因となる肥満細胞の活性化を抑え、くしゃみの原因となるヒスタミンの遊離を抑え、鼻水や鼻づまりの原因となるロイコトリエンの放出を抑える作用が確認されています。
    アレルギーを抑え込む植物成分のサプリメントは、免疫バランス改善タイプに比べると、早めに効果を実感できるので、症状が出てしまってからでも試してみる価値があります。
    漢方の主要成分も草根木皮であり、同様の即効性のある処方が併用できます。
  5. 花粉症は自分の体質を知るバロメーター
    毎年繰り返している花粉症の程度を比較して瘀血・慢性炎症体質を知ろう!
    東洋医学では、人や自然の陰陽五行・気血水のバランスの崩れが病気を発症すると認識しており、病気の原因を、外因・気象ストレス、内因・精神ストレス、不内外因・食事を含めた生活関連ストレスの3つと考えています。
    花粉症の程度に個人差が生じるのは、東洋医学的に見れば、内因と不内外因の差によることになります。内因は精神ストレスです。皮膚・粘膜表面の最前線にいる免疫防衛細胞・抗原提示細胞であるランゲルハンス細胞(樹状細胞)は、自律神経と直結していて、局所の異常を、痒み感覚として脳に伝えます。逆に脳からのストレス刺激によって、この細胞が活性化し、様々なアレルギー症状の引き金を引くので、イライラした易怒性が強いと、花粉症などのアレルギー症状が悪化します。
    もう一つのアレルギー症状の個人差は不内外因によるものです。つまり食事や睡眠を中心とした生活習慣によるものです。当院では、瘀血を予防する食生活の指導と、瘀血体質を改善する漢方治療を行っています。

過去に書いた花粉症関連記事

バレンタインのチョコと花粉症の体質改善
(2012年2月10日常陽ウィークリー掲載)

Q.毎年スギ花粉症に悩まされます。病院に行くとアレルギー体質そのものは治らないから、症状が出たらお薬でコントロールすれば良いと言われます。漢方で治りますか。

A.昭和30年代には3割もなかったアレルギーが平成10年には調査した大学生の86%で何らかのアレルギー血液検査が陽性だったとの新聞記事がありましたが、その後の10数年でアレルギーがさらに増えています。

チョコでアトピーなどのアレルギーが悪化しますが、獣肉や乳製品や高コレステロール食過多と野菜不足から、多くの人が炎症を起こしやすい瘀血(うっ血)体質になっています。これがアレルギーを増やし悪化させる大きな要因です。
さらに生活習慣の変化で脾虚(胃腸虚弱)や腎虚(新陳代謝の低下)が増えて細胞性免疫力(抵抗力)が弱まると、全身がかぶれやすくなり、鼻が詰まり、カゼを引きやすくなります。

漢方的な考え方を取り入れて瘀血(オケツ)や脾虚、腎虚を治す体質改善の本治を続けていると、アレルギー症状が改善する人が増えるはずです。

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