漢方医学の真髄を求め続けて

 2020年9月に土浦医師会雑誌に掲載され、茨城県の医師会誌に転載された記事をブログにのせます。漢方や医療や人の人生に対する基本的な私の考え方と、今後の医療の方向性への提言をまとめてみました。

【投稿記事】 今年は春からCOVID-19のパンデミックが続いて いるが,中国だけが終息したかのように見える。情 報を操作する国なので真実かどうかわからないが,日本中医学会のズーム講演によれば,中医師が活躍した病院では死亡率が極めて低かったそうだ。
 地球温暖化によって,益々得体の知れないパンデミックが横行するリスクがあることから,今後は,西洋医学的アプローチだけでなく,気象医学や自然免疫系に強い東洋医学的アプローチを加えたハイブリッド医療が必要となるのではないだろうか。
  漢方医学を学んで,私なりに考えたことを述べさせていただきたい。

1)病気は治らない?
 漢方医学の真髄を学んでいて,最近,改めて当たり前のことに気付かされた。
 私達医師は診療中に「この病気,治りますか?」と尋ねられることが多い。統計による病気の治癒率を示すことができることもあるが,個人の治療結果を予測することは難しい。
 漢方的には,「病気の要素は無くならない」と考えている。
 顕微鏡も何もない時代にできた漢方医学は,人の五感だけが頼りだったので,「人も自然の一部であり,自然と同じように運行されている」と考えた。そこで健康や病気を夏や冬のようにとらえて循環するものと認識し,自然治癒力である『正気(せいき)』と,発病要因となる『邪気(じゃき)』との勢力争いととらえた。
 そして,急性熱性疾患に対しては,自然治癒力を最大限に高めて邪気を排除する治療法として,『傷寒論』が開発され,『温疫論』などに発展した。慢性疾患に対しては,気血水のバランスで病状を改善しようとする『金匱要略』が開発され『脾胃論』などに発展した。
 さらに,不老長寿をめざした療法が希求され,補剤が開発されて発展した。

 漢方医学の本質は陰陽太極論である(図1)。 人体という太極に陰陽が内在するので,陰の『邪気』と陽の『正気』は,磁石のNS極と同様で,分けることができない。病の要素『邪気』は太極の一部だから,なくならないのである。

2)生きる努力を続けることが大切
 生きると言うことは,生涯,『正気』を勝たせる努力を続けることと言える。生きるために食べ続け,運動し続ける必要があるように,漢方的には,食養生や太極拳などによって,気血水の循環と過不足のバランスを整えて,自然治癒力である
『正気』を高めて,健康長寿を全うしようということである。その一貫として,漢方薬を飲み続けて自然免疫を高めるという選択肢もあるのである。

3)命は終わらない?
 人の人生は,春の芽吹きから始まり,稔りの秋を迎えて枯れ木立の冬となる『四季』に喩えられる。秋から冬に古い葉を落とすことによって,春に新しい芽が出てくるように,四季の『冬』は次に来る『春』のためにあり,四季は永遠に繰り返していて,終わりがない。
 漢方では,人も自然の一部であり,自然の摂理である陰陽五行説に従うと考えている。古代人は,人は『気』霊体と『血,水』肉体の統合したものであり,冬に枯れ葉が落ちて枯れ木立となるように,使い古して枯れて機能しなくなった肉体をそぎ落として,次の新しい肉体に生まれ変わるためのプロセスを死と認識していた。つまり輪廻転生を当然のことと考えていたようだ。
 現代人は,人は死んだらおしまいだと考える人が少なくない。古代の人々の考えは間違っていたのであろうか。古代から霊能者と称する人達がいて,亡くなった人を見たと言い,神霊を見たと言う人がいる。その人の素行を見ていると一概にパラノイア(妄想,幻覚)とも言えない人がいる。
 霊界日記など多くの著作を著したスウェーデンボルグは,スウェーデン王国の通貨や財政など政治,経済の礎を築き,ストックホルムの大火災を遠方に居て言い当てたり,その霊的能力をゲーテらに高く評価されている。
 漢方医学の背景にある陰陽太極論は,易経などに著され,政治,経済,社会,自然など,森羅万象によく適合していることから,陰陽太極論の循環法則に従っている輪廻転生も,実在すると考える方が,矛盾がないのではないかと思うようになった。

4)漢方の真髄を求めて
 漢方医学の素晴らしさは,陰陽太極論や陰陽五行説という古代東洋哲学を,人の健康と疾病に取り入れて,複雑系システム論として治療体系を築き,数千年にわたる治療実践によって,その効果を歴史的に検証してきたことにあると思う。

 太極という生きた存在である人には,陰陽という相反・相補する要素が内在している。天の気にも陰気(収斂,秋冬)と陽気(発揮,春夏)があり,地の気にも陰血(栄養)と陽水(滋潤)があり,人は天地の影響を受けて気血水を循環させて命を営んでいる。
 気血水が,木火土金水の五行の順に五臓を循環している。つまり土気を中心にすえた四時や四季の循環と,四季の変わり目に生じる土用の土気の働きによって,気血水が様々に様相を変化させながら五臓を循環し,五臓に働き『気』と栄養『血』と滋潤『水』を与えて,実際の生命活動を営んでいると,漢方では考えられている。

 この気血水の五臓における様々な様相から,好調か不調かを判断することが漢方診断であり,これら五臓における気血水の陰陽五行的アンバランスを是正して自然治癒力を高めるのが漢方治療である。

5)東洋と西洋を包括する医療をめざす
 漢方医学の真髄を求めて,漢方医学の利点と欠点が見えてきた今となって考えていることは,東洋と西洋を包括するハイブリッド医療である。
 漢方医学は,人の病気を,陰陽五行のシステム論的アンバランスとして,病気の発症から死に至る経過(病位診断)という時間軸を含めて,すべてを統合的にとらえて,自然治癒力を助けることに主眼を置いた医学である。どこまでも病態や病源を分析的に追求しようとする西洋近代医学とは,全く視点を異とする医学である。
 四季の冬を例として喩えるなら,冬は寒くて厳しく辛い季節であると,冬だけを分析的に考えるのが西洋医学である。
  冬は秋から生まれるものであり,春を生みだす季節であると,四季全体の循環システムの一部と捉えるのが漢方医学である。
 病源や病態を分析して治療を考える西洋医学と,人に具わる自然治癒力をシステム論的バランスととらえて治療を考える漢方医学とを同時に行うハイブリット医療によって,お互いの利点と欠点が補完できるので,パンデミックをより早く終息さ
せることができるようになるであろうし,真の健康長寿を希求できるのではないかという思いがさらに強くなった。