暑さ寒さも彼岸まで(令和3年9月)

漢方からみた9月に気をつけたいことをお話しします。

 8月7日の立秋を過ぎた頃から、世界中が大変な気候変動に見舞われています。西日本は戦後最悪の冷夏と長雨だったそうです。暑さ寒さも彼岸までと言いますが、今年は『ラニーニャもどき』と言う人がいて、貿易風(東風)が強く、日本の南方の海水温が上昇しやすい傾向があるようで、秋台風の備えも必要なようです。

 人の健康は、暑い夏の猛暑や、寒い冬の寒気よりも、1日の寒暖差の激しい3月や9月の彼岸の頃のほうが、体調を崩す人が多くなります。特に9月は、気温の低下によって、鼻水やくしゃみが増えて呼吸器の負担になったり、また、寝冷えしてお腹を壊して腸の不調をきたしやすくなります。
 また、湿気は、胃腸に影響して、疲れ易くなったり、めまいや頭痛をおこしやすくなります。胃腸(脾胃)は 『 後天の元気 』 の源ですから、湿気によって体調不良が長引きやすくなります。

 漢方的に、秋は陰陽五行説の『金気』に属し、人の肉体では『肺』と『大腸』に悪影響があり、人の精神では五気の金気である『魄ハク』が機能低下して五感の金気である『悲しみ』をきたしやすくなります。肺炎を起こしやすい新型コロナ感染も、これからの季節が、特に重症化しやすいのではないかと思います。

 秋の体調不良を予防するには、五味の金気に属す『辛』、五穀の金気は『稲:玄米』、五菜の金気は『葱ネギ』で、ショウガやネギを多用して温まる食事を心がけるようにしてください。玄米は、肺や喉を潤して咳を止める『麦門冬湯』の成分にもなっていて、体を潤して元気にしてくれます。秋は潤いの低下する季節でもあるので、大根、人参、山芋、ゴボウなど根菜類を多く摂ることも大切です。

 精神機能の金気に属す『魄:ハク』とは、現実的な意欲・欲望で、情欲も現します。秋の『金気』には、これらの感情の発露を抑えるような収歛の働きがあり、結果として胸の内に悲しみが宿り、時には胸が張り裂ける思いと表現されるほどの、深い悲しみにいたることもあります。
 この精神の不調に対抗するには、心の温まるような美味しいものをいっぱい食べて、胃腸を元氣にすることが大切です。

 また、胸の思いは愛情なので、魄と対になる陰陽のペアである『魂コン』でバランスをとると良いのです。つまり崇高な愛の想いである『魂』を胸に持ち続けることが大切です。 最も大きな崇高な愛情は、親の愛を感じて感謝する心です。
 日本人は昔から、親の親の親であるご先祖へも感謝の思いを持ち、ひいてはご先祖の元である『御親神』に常に守られている安堵感と感謝の気持ちを持ち続けてきましたが、これが日本人のルーツである神道観です。この気持ちを持ち続けられれば、秋の収歛の気によって意欲をそがれることが防げて、さらに、収歛の気によって精神が鍛えられて、より逞しく強い愛情を育てることができるので、心身共に高い健康レベルになれると思います。

 日本の皇室では、毎年、 皇祖皇霊に感謝する秋の皇霊祭が秋分に行われ、それにちなんで秋分の日を国民の祝日に制定したそうです。この日本の文化の真意を大切に守って、心身共に健康になって、秋を謳歌したいものですね。