酷暑と湿気に負けない漢方の知恵(令和8年7月)

 関東の梅雨入りは6月7日で平年並みでした。7月に入り七夕を過ぎて、関東も梅雨明けで、いよいよ夏本番を迎える時期となりました。
 2026年の春頃から東太平洋ペルー沖の海水温が上昇する「エルニーニョ現象」が起きていますが、秋には強力な「スーパーエルニーニョ」が発生する可能性があるそうです。少なくとも過去10年間で最も勢力の強いものとなりそうで、世界的に過酷な干ばつ地域と、激しい嵐や風雨の地域が生じて、地球の気温を上昇させる恐れがあるそうです。近年は地球温暖化で、尋常ではない猛暑と高い湿度が身体にこたえる過酷な気候が続いています。

 漢方医学では、夏は陰陽五行説の「火」、五臓六腑の「心(しん)」の季節にあたります。心身のバランスが乱れやすく、不眠や動悸、イライラ感が生じやすい時期です。さらに、日本の夏は大陸とは異なり高温多湿であるため、夏の厳しい暑さである「暑邪(しょじゃ)」に加えて、高い湿度による「湿邪(しつじゃ)」が私たちの身体、特に胃腸の働きを大きく低下させます。

 近年、熱中症予防のために「こまめな水分補給」が強く推奨されていますが、漢方医学的な視点(小児科医・漢方専門医としての視点)からは、ただ単に冷たい水を大量に飲めば良いというものではありません。ここが、現代の夏バテを防ぐ最大のポイントになります。

 現代の夏バテは、暑邪・湿邪に加えて、冷房や冷たい飲食物による「寒邪(かんじゃ)」が同時に襲ってきます。身体の許容量を超えて水分を摂りすぎたり、冷たいものばかりをお腹に入れたりすると、有効に機能する水分(津液:しんえき)にならず、体内で停滞して「水毒(すいどく)」となってしまいます。
これが悪化すると「痰飲(たんいん)」という状態になり、全身の気・血・水の巡りが滞り、頭痛、めまい、耳鳴り、手足の重だるさ、長引く夏バテを引き起こすのです。
 この過酷な夏を健やかに乗り切るため、以下の3つの対策を心がけてください。

1.徹底して胃腸を冷やさない
 冷蔵庫から出したばかりのキンキンに冷えた飲み物や、氷菓子の摂りすぎには注意が必要です。水分補給は、なるべく常温(昔の井戸水と同じ18℃前後)のものをゆっくりと飲むようにしましょう。

2.「水毒・痰飲」を防ぐ食事の工夫
 冷たい飲み物と一緒に、唐揚げや焼肉などの高脂肪食をたくさん食べると、胃腸の負担が倍増して痰飲を招きやすくなります。油っこいものは控えめにし、消化の良い温かい食事を基本にしてください。また、体にこもった熱を冷まし水分代謝を良くする、トマト、キュウリ、スイカ、トウガンなどの夏野菜を上手に活用しましょう。

3.冷房を活用し「津液」の喪失を防ぐ
 大量の発汗は、体内で機能している大切な水分(津液)を失うことであり、漢方では大出血と同じくらい体力を消耗すると考えます。無理をして暑さを我慢せず、冷房を28℃前後に保ち、外気との温度差が大きくなりすぎないようにしながら、過剰な発汗を防いでください。

 西洋医学では、この「水毒」に対する直接的な対処法がありませんが、漢方薬には、体内の不要な水分をさばき、機能する水分として再配分する「利水(りすい)」という素晴らしい効果があります。

 当院では、保険適応病名に「暑気あたり」とある漢方薬をはじめ、頭痛やめまい、下痢などに頓服で速効性のある漢方薬など、お一人おひとりの体質に合わせた診療を行っております。起立性調節障害(OD)など、気圧や気温差の影響を受けやすいお子様の心身の不調にも漢方は非常に有効です。

「だるい」「食欲がない」「めまいがする」といった不調を感じたら、我慢せずに早めにご相談ください。
皆様が健やかに、そして笑顔でこの夏を乗り越えられますよう、心より願っております。